ゼロ号試写室

映画やDVDの感想。たまに初音ミク&仕事の雑感他。

『クリード チャンプを継ぐ男』89点

クリード/チャンプを継ぐ男 (吹替版)

クリード/チャンプを継ぐ男 (吹替版)

【物語】★★★★☆ 

【演技】★★★★☆

【映像】★★★★☆

《総合評価》89点

 

面白い、という噂を聞いていたが、

期待を裏切らない映画だった。

確かに面白い。

 

いうまでもなく、『ロッキー』の後継作品である。

これまでと違うのは、シルベスター・スタローンは製作に携わっておらず、

新鋭ライアン・クーグラーが監督、脚本をつとめていること。

このライアン監督が、自ら脚本を書き、スタローンを口説いたのだ。

スタローンは、あくまで助演に徹している。

 

ブログ主はてっきり、スタローンが監督をしていると思った。

あるいは、職人の監督さんを「かたち」だけ置いて、

実質は自分で製作総指揮をしているのかと思った。

それくらい、これまでのシリーズとの違和感がなく、なおかつクオリティが高い。

スタローンが製作にタッチせず、ここまで素晴らしい『ロッキー』の後継作が生まれたことは、驚嘆に価する。

 

ストーリーはシンプルである。

ロッキー・バルボアのライバルで、1作目と2作目で死闘を繰り広げたアポロ・クリードが愛人に産ませたアドニス・クリード

アポロは3作目でドラコ(ドルフ・ラングレン!)との試合で死亡している。

偉大な父親を知らずに育ったアドニスは、ある日父の存在を知らされ、運命に導かれるように、ボクシングの世界に入っていく。

しかし素質はあるが、経験が浅い。

そのアドニスがトレーナーを依頼するのが、今は飲食店や事務のオーナーとして静かな暮らしを送っているロッキー。

戸惑いつつも、トレーナーを引き受けるロッキー。

ロッキーに、父性を重ねるアドニス。

厳しい訓練や、自らの出自との葛藤などを乗り越え、チャンピオン戦へと向かっていく。

 

うん、いい。

わかりやすくて、共感できる。

あっと驚く大どんでん返しや、深い話があるわけではないが、

万人に受ける、素直な筋書きだ。

もちろん、退屈なんてしない。

笑いあり、スリルあり、愛もある。

 

演技については、スタローンがナショナル・ボード・オブ・レビュー賞の助演賞を頂戴している。この賞の価値はわからないが、たしかにいい演技だ。

比べるのもあれだが、シュワルツネッガーのおじいちゃん役『ターミネータージェネシス』が酷い出来だったことを考えると、『クリード』のスタローンのおじいちゃん役は、雲泥の差で素晴らしい。

あと、アドニス役のマイケル・B・ジョーダン。

これが、アポロ、つまりカール・ウエザースに似て見えるから不思議だ。

目つきなんか、面影がある。ように見えてしまうのだ。

似ているから選んだわけではないと思うのだが、演出のなせる技か。

 

映像にも一言触れておきたい。

ボクシングの試合のシーンが3回出てくるのだが、カメラワークが素晴らしいのだ。

動きの激しいスポーツなので、通常は、カットを細かく切るか、引いてロングショットで撮るのがセオリーだが、本作では至近距離の長回しが多用されている。

カメラマンが機動的に動いているのか、CGを使っているのか、そのあたりはわからないが、「おいおい、そんなに近づいたらパンチがあたってしまうぞ」と心配になるくらい臨場感がある。自分がリング上にいる感覚だ。

 

というわけで、スキがなく、非常に高いレベルの作品である。

先日『モンスター 新種到来』で受けた痛手は、すっかり癒えた。

 

「89点」と、ギリギリ「90点」に届かなかったのは、

ものすごく完成度が高いのだが、『これ』という突き抜けたものがないからだ。

クリード』は誰が見てもものすごく楽しめる作品だが、

反面、熱狂的なフアンが生まれるような要素は、なかった。

これは最近だと『オデッセィ』にも言えたこと。

後世に語り継がれるためには、突き抜けた何かがほしいところ。

ただしその「何か」は、人為的に作れるのかどうかわからないが・・・

 

ところで、この監督ライアン・クリードは、現在30歳とのこと。

その若さでこのクオリティの作品を作れるとは、末恐ろしい。

期待の監督である。

 

 

 

 

 

 

 

 

『モンスターズ 新種襲来』30点

monsters2-movie.com

 

【物語】★☆☆☆☆

【演技】★★☆☆☆

【映像】★★☆☆☆

《総合評価》30点

 

久々の「大はずれ」映画。

すがすがしく、無駄金を使った。

 

この映画は『モンスターズ 地球外生命体』の続編。

前作は、低予算映画ながら高い評価を受け、

監督ギャレス・エドワーズはその後、ハリウッド版『ゴジラ』の監督に抜擢された。

ただ、ブログ主は、そんなにこの映画が面白いとは思わなかった。

変わったロードムービーだなあ、という感じ。

日常にエイリアンがいる世界でのロードムービー

ある種の新鮮さはあるが、基本的には退屈な映画だった。

 

で、本作。

『新種襲来』と銘打ち、さも『エイリアン2』のように前作からのパワーアップを匂わせているが、パワーアップ(?)したのは、アクションではなく、ロードムービー感であった。

 

まずその『新種』だが、たいして出てこない。

そもそもモンスター自体、この映画ではあまり登場しない。

登場しても、それほど意味のある存在ではない。

予告編に奇しくも「モンスターをよそに人間同士で争い・・・」というキャプションが入るが、それ。

 

本作は、ちょろちょろっとモンスターが出てくるが、そこはどうでもよくて、

中東に派兵された米軍兵士と現地戦闘員および住民の話。

でもって、そのストーリーが、ステレオタイプこの上ない。

反戦団体が作った啓蒙ビデオを見せられているようだ。

 

『アメリカンスナイパー』のようなメッセージ性もない。

『グリーンゾーン』のようなアクション映画性もない。

ジャーヘッド』のようなコミカル(イロニー?)もない。

 

いや、つらいね。

とてもシラフでは観れないしろもの。

 

なお、予告編はSF大作を思わせるが、CGを使ったのは、ほぼ、そこがすべて。

それ以外の110分くらいは、すべて低予算のしょぼい映像である。

 

回避されることをおすすめする。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ちはやふる 下の句』72点

chihayafuru-movie.com

 

【物語】★★★☆☆

【演技】★★★☆☆

【映像】★★★☆☆

《合計評価72点》

 

基本的には『上の句』と同じ出来。

安定して2時間楽しめる。

2部作を通して見ても良い出来なので、『上の句』より2点加点した。

 

原作が継続中なのに映画化するのは、いろいろ難しい。

それにも関わらず、きちんと映画としても、一定の完結をさせている本作は、

原作が良いだけでなく、脚本・脚色のレベルもそこそこ高い。

小さくない点、たとえば新がかるたをやめた理由などが原作と映画とでは違う。

だが、それをもって「原作を侮辱された」という声はあまり聞かれない。

このあたりの「映画化」のうまさが、続編決定にもつながっているのだろう。

 

広瀬すずの配役、演技については、『上の句』で感想を述べた通り。

個人的には原作の「千早」とはイメージが異なるのだが、

それについては、もう、織り込み済みなので語るまい。

『下の句』も、相変わらずだったので、演技の幅の「狭さ」が目に付いた、ぐらいにしておこう。

原作を読んでいなければ、まあ、これはこれでアリだと思う。

クイーンの松岡菜優は、ブログ主はクイーンが出てくるところまで原作を読んでいないので、素直な目で見れるのだが、それでもちょっと、なんか・・・・

・・・・・おばさんくさい?

セーラー服やジャージがいまいち似合わなかったんだが、

原作でもそういう設定だろうか。

関西弁は、良かった。

松岡嬢が関西出身か否かは知らないが、言葉遣いは自然に聞こえた。

関西出身のブログ主が認める。

 

映画の最後は、千早とクイーン、太一と新が対決するところで、終わる。

まあ、この終わり方は、別に構わない。

でも、最後に千早のスローのアップで終えるのは、やめてほしかった。

そんなにみんな、広瀬すずが見たいのか?

ちはやふる』を見たいのであって、広瀬すずを見たいわけではないブログ主にとっては、こういう演出は、後味が悪い。

 

これがなければ、あと3点は上げていたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

『コードネームU.N.C.L.E』69点

wwws.warnerbros.co.jp

【物語】★★★☆☆

【演技】★★★☆☆

【映像】★★★☆☆

《総合評価》69点

 

卒なく作ってあり2時間楽しめる。

なのに、採点はちょっと辛め。

ちょっと不思議な作品。

 

物語は、比較的ありがちなスパイ映画。

米国とソ連のトップスパイ同士が手を組み、悪の組織に立ち向かう、という筋書き。

正直、それ自体はたいして新鮮味がない。

普段は対立するグループのエース同士が凸凹コンビを組むのは、いたって王道の物語。

 

米国の代表は、プレイボーイ。

ソ連の代表は、やや堅物。

このパターンも、う〜ん、ありきたり。

演技、役作りは、悪くないが、強烈な魅力も感じられない。

 

物語も、演技も、「悪くない」けれど「加点がない」。

 

映像は結構好き。

冷戦中の設定を上手く撮影している。

ガイ・リッチー監督らしさ、つまりスタイリッシュな演出も挟まれる。

おしゃれな画作りで、卒がない。

 

そう、この作品は「卒がない」という言葉がピッタリあう。

テクニックはすごいのに、魂がない、と言えばいいのだろうか。

監督やスタッフが「どうしても撮りたかった」映画とは思えないし、

続編を匂わす終わり方をしているが、

残念ながら続きはないと思われる。

 

悪い作品ではないが、見逃しても全く差しさわりがない。

 

 

 

 

『スパイ・レジェンド』74点

spylegend.jp

【物語】★★★☆☆

【演技】★★★☆☆

【映像】★★★☆☆

《総合評価》74点

 

ボンド俳優、ピアーズ・ブロスナンのスパイ映画。

現役スパイではなく、一度は一線を引いた敏腕スパイが

陰謀に巻き込まれるという筋書き。

まあ、タイトルのまんまの筋書きだ。

安直なタイトルなのであまり期待していなかったが、

思いの外、しっかり作ってある作品だった。

 

CIA、ロシアの殺し屋、両方から狙われることになる主人公。

特にCIAからは、元部下の腕利きの若者から狙われる。

ここに、師弟関係と、プロ同士のプライドが絡み合い、盛り上げる。

また、すべての鍵を握る謎の女=オルガ・キュレンコ。

『007 慰めの報酬』といい本作といい、

スパイ映画でミステリアスな役をやらせると、非常に映える。

 

アクションも本家007に負けない迫力がある。

ピアーズ・ブロスナンも、弟子役のルーク・ブレイシーも、

どちらもカッコ良い。

 

タイトルがいまいちパッとしないので、いかにもB級映画っぽいのだが、

結構力の入った逸品であった。

 

 

 

 

『ラッシュ/プライドと友情』77点

rush.gaga.ne.jp

【物語】★★★★☆

【演技】★★★☆☆

【映像】★★★☆☆

《総合評価》77点

 

特筆して「ここがすごい!」という点はないが、

全体的によくできた作品で、観ていて心地よい。

さすがロン・ハワード監督。

 

物語はF1で互いにしのぎを削る、

ジェームズ・ハントニキ・ラウダの物語。

ブログ主はF1の知識はほぼ皆無だが、

それが奏功してか、レース結果を知らないので、

最後までハラハラと二人の勝負の行く末を楽しむことができた。

おそらく結果を知っていても、

それはそれで「あの時、こんなことがあったのか」と楽しめるだろう。

 

F1好きにはおそらく既知の事実なのだろうが、

ハントとラウダの性格が正反対なのも面白い。

ハントは攻撃的かつ野生的なドライビングの天才で私生活も自由奔放。

ラウダは計算づくしのドライビングの秀才で、私生活は真面目で地味。

無名の頃からお互いを知っていて、そして互いに「いけすかないやつ」と

思い続けていたが、よく考えてみると、よきライバルであることに違いが気付く。

(言葉にはしないが)

このあたりの、勝負に生きる男の自尊心と、友情が、本作の見どころ。

 

レースのシーンは、実は本作の見どころではない。

迫力ある映像が映し出されるが、わりと短くまとめられている。

(非常に見応えがあることを付記しておく)

それは、本作がレースシーンを見せたい映画ではなく、

二人の男の生き様と交錯点を見せたかったからだろう。

そして、そのことに本作は成功している。

 

男性には特にお勧めできる映画だ。

 

『百円の恋』85点

100yen-koi.jp

【物語】★★★★☆

【演技】★★★★☆

【映像】★★★★☆

《総合評価》85点

 

すごい映画だ。

たいして宣伝もされてないので、知らない方も多いと思うが、

騙されたと思って、観てほしい。

こんなに豊穣な映画は、久しぶりである。

 

底辺で暮らす女子が、ボクシングで人生を切り開いていく、という物語。

と聞くと、クリント・イーストウッド監督の『ミリオンダラーベイビー』を

想起される方もいるかもしれないが、趣はかなり異なる。

まず、『ミリオンダラーベイビー』は基本的にはサクセスストーリーだが、

本作は、全然サクセスしないのだ。

底辺の世界で、漂い、もがき続ける。

そして殺伐とした世界観の中に、そこはかとなくユーモアがあり、人間味が溢れる。

「うわ〜、こんな世界、やだなあ」と思いつつ、惹きこまれる。

 

もう一つの違いは、役者の違いだ。

本作には、ヒラリー・スワンクのような美女も、イーストウッドのようないぶし銀も出てこない。

全員が全員、見た目も性根も冴えない、ダメ人間。

ブログ主も観ていて何度も「ひでえな、これ(笑)」とつぶやいたものだ。

もちろん、褒め言葉として。

ダメ人間、クズ人間の蠢きを、見事に活写しているのだ。

脚本、演出、演技の三拍子が揃っていないと、これは難しい。

すばらしい、底辺描写である。

 

それを支えているのは、演技力だ。

主演の安藤さくら、不勉強にしてブログ主は、本作まで知らなかった。

本作がはじまって最初の30分は、もう、主人公のダメさ加減に呆れ果てた。

こういう人、いるよ。

ほんと何の取り柄もない、ダメなやつ。

自分のことは棚に上げて、そう思った。

そう思わせるほどの、クズっぷりなのである。

本物(のクズ)を連れてきたのではないか、とさえ思った。

しかし、あとで調べたが安藤さくらは、本当は真逆のサラブレットだ。

父は奥田瑛二で、自らも学習院大学を出ている。

演技力で、底辺のダメ人間を、見事に演じきっているのだ。

後半では、プロボクサーと見紛うほどキレキレのシャドーも披露している。

感服するしかない。

 

脇役もすばらしい。

一人一人挙げてはキリがないのだが、準主役の男(恋人?役)から、

ちょい役の妹、バイトの店員に至るまで、本当にいい味を出してる。

この映画の撮影現場は、絶対に、いい雰囲気だったはずだ。

 

映像も凝っている。

間違いなく低予算映画なのだが、金はかけずに、知恵と工夫で

面白い画(え)を作っている。

時にスローモーションにしたり、時に長回しを使ったり、

あざとくない範囲で効果的に技術を披露している。

照明もにくい。

シーンによっては、あえて登場人物の顔を見えないくらいの暗さにするなどして、

セリフだけでなく、画(え)でメッセージを伝えてくる。

この一工夫、この一手間が、なかなかできないものなのだ。

 

昨今、「日本映画はダメだ」と言われることが多い。

たしかにハリウッドのSF超大作みたいなものは、日本は歯が立たないだろう。

中国、韓国にも、負けるかもしれない。

でも、それがどうした。

金をかけなければいい映画は撮れないのか?

有名俳優や人気タレントが出ないと映画は撮れないのか?

否である。

本作は、どう考えても低予算映画だ。

CGもないし、有名俳優も出ない。

なおかつ、美男美女も登場しない。

だが、抜群に面白いではないか。

ブログ主にとっては、『ジュラシックワールド』よりも面白かった。

 

素敵な脚本と、たしかな演技力と、製作陣の創意工夫があれば、

日本でも、低予算でも、面白い映画が撮れるのだ。

この映画は、そのことを照明している

 

 

PS

本作のエンドロールのクレジットに、いくつか撮影協力地が紹介されている。

でも、意図してかどうかわからないが、一箇所、名前が出てきていない地名がある。

主人公の住む木造アパートを含め、うらびれた、いかにも底辺の人が住んでいそうな、ガラの悪い地方都市が本作のメイン舞台だが、ここの地名が出てこない。

この映画の、半分くらいのシーンが、そこで撮影されているというのに。

その地名は、横浜市鶴見区の、沿岸部だ。

誰が選んだかは知らないが、このロケーションは、正解である。

鶴見区の沿岸部は、基本的にガラの悪い地区で、成人および学生の金髪率も高い。

だから、この映画ににじみ出ている「底辺感」は、鶴見区のおかげである。

地名を伏せたのは、ある意味配慮かもしれない。

もし鶴見区に住んでいる方がこれを読んで気分を害されたら、許してほしい。

かくいうブログ主も、そこの住民である。

映画に出てきたシーンの3割ほどは、もろに生活圏だ。

最初、「なんとなく見たことがあるような景色だな〜」と観ていたのだが、

途中、自宅の目の前が写って驚いた次第である。

 

繰り返しになるが、監督がこの地を選んだのは、

住民の一人として「正解ですよ」と言いたい。